散歩道や公園の草むらに潜むマダニは、致死率の高いSFTSなどの恐ろしい感染症を媒介します。人間にも感染する病気もあるため、放っておくと愛犬だけでなく飼い主さんの命まで脅かすかもしれません。適切な知識と対策をしていきましょう。
本記事では獣医師監修のもと、マダニの正しい見つけ方から、やってはいけない間違った対処法、そして愛犬を守るための最新の予防策を徹底解説します。
目次
マダニとは?ダニとの違い
マダニは目視できる
マダニは、身近な害虫である屋内塵性ダニ類やイエダニと同じ『ダニ』の一種で、動物から吸血します。家の中によくいるコナダニやヒョウヒダニ(0.2〜0.4mm程度)とは異なり、肉眼でも確認できる大きさ(2〜4mm程度)です。
- 未吸血時のサイズ:2〜4mm程度
- 吸血後のサイズ:体重が100倍以上に膨れ上がり、体長10〜20mmのイボ状になる

マダニの生息場所
マダニは森林や草むらだけでなく、公園・河川敷・家の庭など、緑がある場所ならどこにでも生息しています。草の先端で待機し、動物が発する二酸化炭素・体温・振動を感知して飛び移ります。わんちゃんのお散歩コースとしては自然の多い場所が魅力的ですが、マダニが潜んでいる可能性があることは知っておきましょう。
マダニの吸血メカニズムと感染リスク
マダニは皮膚を切り裂き、ギザギザの口器を差し込み、セメント様の物質で自らを固定したうえで、数日〜10日間にわたって吸血を続けます。吸血を開始してから病原体が体内に侵入するまでには通常24〜48時間以上かかるとされており、早期発見・早期対処が感染予防に重要です。
マダニがつきやすい身体の部位は?
マダニは、目・鼻・口の周り、耳、胸、お尻の周り、内股などの毛が薄い部分につきやすいです。ワンちゃんはお散歩で草むらに顔を近づけることも多いので、特に顔周りは注意して見てあげましょう。

マダニの寄生で発生する症状

貧血
マダニは犬の皮膚に食い込ませて咬みつくので、一度寄生してしまうとなかなか離れてくれず、数日〜10日間にわたって吸血を続けます。長期間たくさんのマダニに吸血されることで、貧血が発生することがあります。特に小型犬や子犬では深刻化しやすいので注意です。
皮膚炎・アレルギー
マダニの唾液成分がアレルゲンとなり、激しい痒み・赤み・腫れを引き起こす場合があります。
ダニ麻痺症
特定のマダニが分泌する神経毒により、四肢の脱力や麻痺が生じることがあります。海外に生息するマダニが主となります。
マダニが媒介する感染症
バベシア症
マダニが媒介する感染症の中でも、犬に注意が必要です。マダニの吸血により「バベシア」という寄生虫が犬の体内に入り、重度の貧血を起こす重篤な感染症です。
犬にバベシアが感染する際に、マダニが2~3日間吸血する必要があるといわれているため、マダニの予防を定期的に行うことで、バベシア症を予防することができます。
- 病原体:バベシア原虫
- 主な症状:高熱・重度の貧血・黄疸・血色素尿(赤褐色の尿)
- 特徴:西日本に多いが全国で拡大中。死に至る可能性があり、完治が困難で再発しやすい。人には感染しない。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
近年、特に注目度が高まっているウィルス感染症です。感染した犬のよだれなどをを通じて、人間にも感染します。犬が感染した場合は無症状から重度の症状までさまざまです。人が感染すると、致死率が10〜30%と非常に高く注意が必要です。
2024年6月24日、抗ウイルス薬ファビピラビル(アビガン)がSFTSウイルス感染症に対して世界初の治療薬として日本で承認されました。
- 病原体:SFTSウイルス
- 犬の症状:発熱・嘔吐・下痢・白血球や血小板の減少。軽症が多いが死亡例もある
- 人間での致死率:10〜30%と非常に高い
- 特徴:感染した犬や猫の体液(血液・唾液・排泄物)から人への感染も報告されている
ライム病
マダニが媒介するボレリアという細菌によって引き起こされる病気です。犬が感染しても目立った症状がないことも多いですが、食欲がなくなり、ふらつきがみられることもあります。
- 病原体:ボレリア菌
- 症状(犬):発熱・食欲不振・関節炎(跛行)・神経症状
- 特徴:犬では症状が出ない感染も多い。人間に感染すると、マダニに咬まれた部分から徐々に紅斑が広がる「遊走性紅斑」や発熱、関節痛などが現れます。
エールリヒア症
マダニが媒介するリケッチアという細菌の一種によって引き起こされる病気です。
- 病原体:リケッチアの一種
- 症状:発熱・リンパ節の腫れ・鼻出血・体重減少
- 特徴:白血球に寄生し免疫力を著しく低下させる
Q熱
マダニが媒介するコクシエラという細菌によって引き起こされる病気です。人間が感染すると、高熱や頭痛、倦怠感といったインフルエンザのような症状が出て、肺炎や肝炎を引き起こすこともあります。
- 病原体:コクシエラ菌
- 症状(犬):軽微な発熱・不顕性感染・妊娠中の場合は流産のリスク
日本紅斑熱(人間)
- 人間が感染した場合、高熱・頭痛・全身の発疹が現れ、重症化すると多臓器不全を招く危険な疾患です。
マダニを発見したときの正しい対処法

「無理に取らない」が鉄則
愛犬の皮膚にマダニを見つけた場合、最も重要なことは自己処置をしないことです。
マダニはハサミのような口で皮膚に噛みつきセメントのような物質で固着して吸血するため、無理に取ると胴体が切れ、頭部や口が皮膚中に残ってしまいます。
やってはいけないこと
- ピンセットや素手で無理に引っ張る: 口器が皮膚内に残り、化膿や切開手術が必要になるケースがある
- 潰す: 体内の病原体が宿主の体内に注入されたり、体液から飼い主に感染したりする危険がある
- アルコールや火で刺激する: マダニが興奮して病原体を逆流させるリスクがある
推奨される正しい対応
速やかに動物病院を受診することが最善策です。獣医師が適切な駆除薬を投与すれば、マダニは24〜48時間以内に死亡し、自然に脱落するか安全に除去できるようになります。
犬のマダニ予防|最も効果的な方法は?

動物病院処方の駆除薬が最も確実
市販の駆除薬は、動物病院で処方される医薬品と比較して効果が約60%程度にとどまるとの報告があります。確実な予防には、獣医師による処方薬の使用が不可欠です。
- スポットタイプ(滴下薬)
首筋に薬液を垂らすタイプ。投薬が苦手な犬や食物アレルギーのある犬に適しています。ただし、投与前後数日はシャンプーを控える必要があります。
- チュアブルタイプ(おやつ錠剤)
嗜好性が高く飲ませやすいうえ、投与後すぐにシャンプーやスキンシップが可能。全身にムラなく速やかに効果が広がります。
- オールインワン製剤
フィラリア・ノミ・腸内寄生虫と同時に予防できるタイプが主流。複数の寄生虫対策をまとめて行いたい場合に便利です。
通年予防が重要な理由
マダニは春〜秋に活動が活発化しますが、冬場でも活動する個体がいるため、一年を通じた定期的な投与が推奨されます。
今すぐできるマダニ対策|散歩前後のチェックポイント
虫よけスプレー
そもそも外出時にマダニを寄せつけない、家に持ち帰らないようにするため、マダニを忌避できる犬用の虫よけスプレーを使用するのも一つの手段です。
選ぶポイントとしては、必ず犬専用のものであること、「ディート」などの化学薬品が含まれていない天然成分由来のものであること、香りが強すぎないものを選ぶようにしましょう。
また、顔周りには直接塗布しないようにしましょう。
虫除けスプレーについては下記記事もご覧ください。
【獣医師監修】愛犬を守る虫除け対策〜安全な選び方・正しい使い方・季節別対策まとめ
散歩後のボディチェック
散歩から帰宅したら、以下の場所を重点的に確認しましょう。
- 顔周り(目・耳・鼻の周辺)
- 首輪の下
- 内股・鼠径部
- 指の間・肉球周り
- お尻・しっぽの付け根
ブラッシングと服装の工夫
帰宅直後のブラッシングで、吸血前のマダニを物理的に払い落とせる可能性があります。また、犬に洋服を着せることで皮膚への直接接触を防ぐ効果も期待できます。飼い主自身も散歩時は長袖・長ズボンで肌の露出を減らしましょう。
草むらへの立ち入りを避ける
マダニが特に多い未整備の草むらや藪には、なるべく愛犬を入れないように管理することが大切です。
室内環境の整備
マダニは室内でも生存できます。定期的な掃除・換気を行い、ペット用のベッドや毛布はこまめに洗濯して清潔に保ちましょう。
まとめ
マダニ対策の要点は次の3つに集約されます。
- 「持ち込まない」:虫除け対策するとともに、草むらへの立ち入りを最小限にする
- 「刺させない」:年間を通じて動物病院処方の駆除薬を定期投与する
- 「もし刺されたらプロに任せる」:自己処置せず、速やかに動物病院へ
マダニが媒介するSFTSやバベシア症は、現代の獣医学でも治療が困難な場合があります。予防こそが最大の防御であることを忘れず、愛犬と飼い主自身の健康を守るための対策を今すぐ始めましょう。